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「空港にて」村上龍(文春文庫)

いや~泣けましたよ。
役所で順番待ちをしながら読んでたんですけど、泣いてしまった。

まわりの人、どう思ったんだろう。まぁいちいち見てないか。

「この短編集には、それぞれの登場人物固有の希望を書き込みたかった。社会的な希望ではない。他人と共有することのできない個別の希望だ。」

あとがきのこの一文が示すように、この短編集で描かれるのは個別の希望で、それは他人から見たら取るに足りない希望であったり、理解されない目標だったりします。

表題作「空港にて」の主人公ユイはシングルマザーであり風俗嬢。ある日偶然みた映画から影響を受け、義肢装具士を目指すというのが粗筋。

「無理だと思う理由は、わたしが高卒で、すでに三十三歳になろうとしていて、離婚歴があって、しかも四歳の子どもがいて、風俗で働いている、そういうことだ。」

ユイは客観的に考えれば無理だという思いにしばられます。でも、それを支えてくれるのがサイトウという風俗で知り合った会社員。

「原因がわかってないと、ものごとは絶対に解決できないんだ。ユイさんは自分の何が問題なのかを知っている。だから解決策を発見したんだよ。」

ユイが見つけた「個別の希望」。
それを村上龍は手放しで絶賛するような書き方はしません。

著者は空港のある風景、たとえば一緒にいるのに不在感を感じさせる人間たちの様子を並行して描いていきます。

そのコントラストこそがこの短編集の最大の魅力だと思います。
希望はあくまでその人固有のもの。自分の考えでもって生きていくこと、そこには悲しさも当然あるだろうし辛いこともある。
何かを選べば何かを捨てるかもしれないけど、それでも希望を捨てずに生きていくことは悪いことじゃないと思います。

ところで、ジャンルは全く違うけど「個別の希望」という意味ですごく繋がりを感じる本をちょうど併読してたので紹介します。

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「年収90万円で東京ハッピーライフ」大原扁理(太田出版)

働くのは週2日。つまり週休5日。家賃2万8千円。東京多摩地区のアパートに住み、年収は90万円。
極貧の困窮生活……と思いきや、著者の生活は充実しまくり。

友達はたくさん持つべき。夢や目標がないとダメ。必死に働かないと将来困る。
そういう社会の常識やルールというものが正しいのかどうか自分で吟味し、他人と比べず、「自分が本当に幸せかどうか」のみで生きている著者。

他人の尺度ではなく自分の尺度で考える、という事を突き詰めて生きています。

なので、この本は「東京でも90万円で生活できるよ!」というマニュアル本でなくて、「自分の幸せを自分の尺度で追及したらこうなった」という本です。

だから面白いし、この本からも「個別の希望」を感じるんですよね。

どっちの本も自信をもってオススメできる本です。
是非読んでみてください。




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by mamesyakuhachi | 2017-03-06 00:01 | 村上龍 | Comments(0)