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『アルケミスト』パウロ・コエーリョ/著

先週月曜日は中野区立江古田図書館にて知的書評合戦ビブリオバトルに参戦しました。

テーマは「50年後に残したい一冊」

発表者は5名で結果は1位になれませんでした。(2位以下の順位は敢えて聞かなかったので不明です)

紹介本は又吉直樹「第2図書係補佐」(幻冬舎よしもと文庫)
・・・ですが、実はギリギリまで古井由吉「杳子」(新潮文庫)を紹介しようと思っていました。

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「杳子」は硬質な悲しみをたたえた小説。読むと陰湿な影に入りこんでしまいます。
僕はこの作品の悲しさの中に、どうしても入り込めない他人というものや、世の常識からズレてしまう時の生きづらさを感じます。
美しさと影を感じる著者の文章、そして作品に常に流れる緊張感と固有名詞を避けた展開。
それをどう解釈すれば良いか、分からないながらも探り当てたいと思いながら読みました。(自分の解釈が50年後にはどう変わるだろう、という気持ちも込めたかったんですね)
しかしながら、今の僕では
「杳子」を捉えきれず直接紹介するのは結局憚られました。そこで「杳子」を紹介していた「第2図書係補佐」を取り上げました。(直接紹介するのは無理でも間接的に50年後に残す事はできるだろうと考えたんです。)

「第2図書係補佐」で又吉さんは自分の元恋人との思い出に密やかな悲しみを織り込んで「杳子」を紹介していました。「杳子」の魅力が伝わる文章に託したという感じです。

そんな経緯があったものの、5分のプレゼンでは自分の辿った道筋や二つの本の魅力を上手く伝えられませんでした。時間の使い方に自己反省です。

やや後悔が残る今回のビブリオバトルでしたが、他の発表の中で一冊の本との出会いがありました。
今日はその本を取り上げます。

パウロ・コエーリョ「アルケミスト」平尾香/画、山川紘矢・山川亜希子/訳(角川文庫)

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【あらすじ】
羊飼いの少年サンチャゴは旅の途中で「セイラムの王様」と名乗る老人に出会う。王様は運命を生きよと少年に語りかける。やがて少年は全てを捨てて自己の運命、そして内なる心の声と共にエジプトに旅立つ。


僕はビブリオバトル後に一旦図書館を出たものの、何だか心に引っかかりを感じ、この本を借りる為に踵を返しました。
自宅に帰り読み始め、すぐに話に引き込まれました。
この物語は夢を追い続けること、そして運命を信じることについて書かれた本です。

気になった文章を引用します。

『僕は本当は十年も前に始められたことを、今やり始めたのだ。二十年間も待たなかっただけ、少なくとも僕は幸せだよ』
『「マクトゥーブ」と商人が最後に言った。「それはどういう意味ですか?」(中略)「それは書かれている」という意味さ』
『おまえが自分の内にすばらしい宝物を持っていて、そのことを他の人に話したとしても、めったに信じてもらえないものなのだよ』
『傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりもつらいものだと、おまえの心に言ってやるがよい。』
『彼のやり方は僕とは同じではなく、僕のやり方は、彼のやり方と同じではない。でも僕たちは二人とも、自分の運命を探求しているのだ。だからそのことで僕は彼を尊敬している』

夢を見ること、信じることの素晴らしさを描いた作品。世界中で愛読されています。

そして、この作品を今回のビブリオバトルで紹介されていたのは40代男性、図書館司書の方でした。
その方が伝えたのは、この本にまつわる奇跡でした。
男性のご友人のもとに実際に起きた奇跡。創作である「アルケミスト」が実話になり得た事を語られていました。
どういう奇跡か、ここで詳細を伝えたい所なんですが、紹介されていた方の大切な思い出なので、詳しくは伏せたいと思います。

ごく簡単に言えば、「アルケミスト」との出会いから、数年後に夢を叶えたご友人のお話でした。

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夢を叶えるのって本当に難しいですよね…。
夢を追いかけるという事が大人になればなるほど如何に難しいかは想像できると思います。

僕は「夢を追うことは素晴らしい」とは思いこそすれ、それを自分に素直に当てはめたり他人に吹聴したりは出来ません。
常に現実に引き戻されるし、「いい年して・・・」とか「現実みなよ」とも言われるし、たとえ言われなくても周囲からそう思われているんじゃないかと考えるとやはり怖いです。

この「アルケミスト」はそういった人間の複雑さや脆さを知りながらも、物語としてシンプルな1つの道筋を照らす作品だと思います。

紹介された男性が一番好きな文章として以下の文章を引用されていました。

『おまえが何かを望む時には、宇宙全体が協力して、それを実現するために助けてくれるのだよ』

司書の男性も、夢を叶えたご友人もきっとその言葉に支えられてきたのだと思います。

夢を追いかけて情熱を燃やし続ける事は本当に難しい事です。
あと1日頑張れば、あと1歩踏み出せば頂上に着くかもしれない。でも闇の中は非常に恐いものです。

それを分かった上で、そして年齢と比例して否応なく増していく複雑さを払いのけて、敢えてシンプルに伝える言葉には感動的な響きがありました。

一冊との出会いに感謝です。

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本には個人的な思い出が閉じ込められています。
それが限定的であっても、いや限定的であるからこそ、感情や温度や熱の強さがあります。

それに触れたとき「繋がった」と感じます。
僕もそんなささやかな繋がりを音楽や本を通して伝えたいです。

僕のこれからの人生も、もしかすると『マクトゥーブ』なのかもしれません。

どんな物語なのか続きを気長に楽しみたいと思っています。

今日は長くなりましたが、これにて以上です。

更新は毎週月曜日。
次回は10月17日です。
読んで頂きありがとうございました。

by mamesyakuhachi | 2014-11-10 01:00 | パウロ・コエーリョ